寄せ集めの書評その3

日本の軍隊マニュアル―帝国陸軍と陸上自衛隊『戦闘力』の比較検証

日本の軍隊マニュアル―帝国陸軍と陸上自衛隊『戦闘力』の比較検証

時は、明治維新。国軍の構想を掲げた初代兵部大輔大村益二郎は兇刃に倒れた。
フランス、プロシアアメリカ視察を終えて兵部少輔(しょうゆう)となった山縣有朋は徴兵制による国軍の建軍を画策していた。そのとき徴兵制を否定していたのは全国40万人の武士階級であった。
ここから本書は始まり、途中で敗戦を経て生まれ変わり、現在の自衛隊に至るまでの日本の軍隊についてその生い立ちから素性までを実に見事に分析している。
勇猛果敢な下士官が乱れた指揮系統の中で戦った結果として亡国を導いたとは良く言われるが、その組織の成因も極めて納得の行く説明がなされている。
よく言われる話として日本人の組織には有能な指揮官が生まれにくいと言われる。しかしこの論拠の大半は太平洋戦争における指揮系統の不備に基づくものであり、これをもって敗戦の原因を推し量れば循環論法に陥り有効な結論を得ない。
そう言ったある種のイメージに基づく日本人観を排して上で本書を読むことで、敗戦を導いた原因が推測できる。
本書では指揮系統の不備は極めて具体的に考察されており、何が不適切な軍事行動であったかを筆者が明確に把握していることが理解できる。
それを踏まえて読者として考察した結果、次のような結論に落ち着いた。
日本は明治時代より急速な近代化を進めたが、長らく続いた封建社会と訣別して真に「近代的な国防体制」を築くことが出来なかったのである。
その結果として有能な将校を配した近代的な軍隊を持つことが出来ず、大東亜戦争では米軍に敗北したのである。
過去の日本軍と現在の自衛隊に関して、長年の研究に基づいた素晴らしい分析と示唆に富んだ提言を綴っている著者の三根生久大氏の名前は、敬意と共に心に留めておきたいところだ。

さてここで第一章を要約する。

明治四年二月、西郷隆盛による親兵設立により日本は政府としての初めての軍隊をもつことになった。
明治五年に近衛兵と改められ、西郷隆盛を都督として全国主要都市に志願制を持って常備された。
薩摩、長州、土佐の旧武士の集合体であり、国家という意識は低かったのである。
そのため、徴兵制を採用し、天皇を中心とする国家の軍を組織して内憂外患に備える必要があると山縣有朋の強い危機感があった。
そして明治六年四月、帝国陸軍の建軍に至る。
日本の軍隊では私的制裁が横行していた。
当時の士官以上は武士の出であり、徴兵されてくるものはほとんどが農民と町民であった。士官「平民ごとき輩が自分たちと同様に、国防という大任に就くなどもってのほかだ」と新兵を殴り倒していたのである。
徴兵の新兵は命令に無批判・従順でいかなる困難にも耐えうる強兵となっていったのである。

このあたりには日本軍の極めて強い下士官が錬成されていく過程を表しているように思われる。

次に三章の第一部を要約する。

日本軍は当初軍制はフランス一辺倒であったが、明治20年からプロシア式を取り入れることで軍国主義に急速に傾斜していく萌芽が見られた。
ドイツ式を取り入れた日本では、参謀養成のための陸軍大学校で戦略・戦術・一般教養・哲学を重視した「教養ある武人」の育成に努めたのである。
しかしながら、封建時代の武士に通じる意識が強く残存していた当時の軍人としては、次元の異なるプロフェッショナリズムを理解することは元々困難であった。
当時の帝国陸軍の軍人―将校は、暴力の管理能力という軍人的価値よりも、名誉と勇気といった武人的価値が強く、率先、陣頭に立って兵とその苦労を共にするという方が勝っていたことだろう。

このように本書ではプロシア式の導入が軍国主義の萌芽となったとの論が展開されている。
「近代的な国防体制」をどう定義するかは本書からは若干読み取りにくいところではあるが、前述の軍人的価値を持った将校を育成するシステムを備えるものかと考えられる。
そして、暴力の管理能力という軍人的価値に欠けていたのが、封建時代の武士に通じる意識の残存が原因だったと論じられていることから、やはり日本軍の脆さの原因は長らく続いた封建社会と訣別して真に近代的な国防体制を築くことが出来なかったことだと私は理解する。
これが本書の前半部分を読んで得られる結論である。更に本書では人事問題、作戦の不手際によって太平洋戦線で敗北する様が克明に描かれているが、その根本は「近代的な国防体制」構築に出遅れたことに起因するものと私は解釈している。

「近代的な国防体制」の定義が若干曖昧なのが気にかかるところであり、山縣有朋の視察したフランス、プロシアアメリカが当時日本よりもどれほど進んだ兵制を持っていたのかは別途考察が必要だろう。

と、ここまでで一旦前半部分をまとめておこう。
さて、本書の中盤〜後半にかけても極めて示唆に富んだ内容となっているので、いずれ他の書籍と同時にまとめておきたいところである。

おまけ、アメリカさん。

占領地域では米軍が解放軍であり正義の軍であるかのような印象操作が行われたが、それが最も成功したのが日本でした。

田母神国軍

田母神国軍  たったこれだけで日本は普通の国になる

田母神国軍 たったこれだけで日本は普通の国になる

武器輸出によって売却先の国の戦力をコントロールできるってところはなるほどと思う。