分散電源系は可能か

地域分散エネルギー技術

地域分散エネルギー技術

世間では俄かにマイクログリッド分散電源系が注目されているが、それがどういうシステムなのかというと世間の認識では概念的なお話ばかりであり、具体的な内容はあまり認知されていない。
そこでとりあえずこの本を読んで勉強してみた。

本書に登場する研究グループの中では、分散電源系が着眼点となる出発点として、大規模な発電所で集中的に発電する集中電源系が発電効率の限界に来ているとの指摘がある。
この指摘が妥当かどうかはわからないが、とにかくこの出発点を軸足として本書では分散減電計の議論が進んでいくのである。

分散電源系の活用

さて、分散電源系の活用方法であるが、それは出力のコントロールと廃熱の利用である。
前者は、小規模な発電機を多数設置することにより、発電機の稼働率を調整して発電量を制御し、化石エネルギー使用の削減に繋げるという発想である。
後者は、小規模な発電機を多数設置することにより、発電機と電力を消費する場所が近くなることを利用して温排水を供給するラインを構築しようという発想である。

上記2点は分散電源系の優位性を主張するための重要なポイントであるが、実現性という意味では大きな疑問符がつく。
発電機の稼働率を調整についてであるが、これは誰が主体となって稼働率を調整するのかという運用システム上の問題がある。最も単純な解決策としては一般電気事業者が行うことになるだろうが、小規模化による管理コストの増大は明らかである。
小規模化して稼働率調整を行うのであれば分散して設置するメリットは全く感じられず、小規模電源を一箇所に集めて集中管理する方が管理上得策である。
となると、期待されるのは廃熱の利用という点である。廃熱需要の季節変動があるだろうし、発電量の制御によって居住地域の発電機が停止させられた場合には廃熱が得られないという問題がおきる。
更には、小規模な発電機が多数で電力を融通するとなると、発電機の増設があったときには、送電網の局所的な容量を見直してその増設を受容可能かという検討が必要になる。

こうなると、分散電源系を社会が採用するメリットというのがほとんど見えてこないように思える。
現状の電力システムを大胆に破壊して分散電源系と市場原理を組合わせた電力システムを構築してその中に自然エネルギーを組込むというのが昨今の世論の多数派を占めていることは確かだが、そういった現状の対極にあるような改革が国民にとって幸せなことであるかは全く不明だ。
今すべきことは現行の電力システムの問題点は何でその解決策は何かという極めて正統的で古典的な思考回路に立ち戻って議論をすることである。
ここまでの議論では分散電源系にける発電所と管轄範囲という「グリッド」の規模は言及しておらず、敢えて定性的な議論にとどまっているのだが、それは「グリッド」の大規模化と小規模化でどのような特徴が現れるかをまず理解することが重要だからである。
今回は小規模化によるデメリットが挙げられるという結果になったが、大規模化にもデメリットがありそれは本書の出発点となっている発電効率の限界である。
そのようなメリットデメリットをよく分析して最適なグリッドの規模を探すことが本来あるべき議論であり、現状分析を放棄して現状の対極に理想的な解を見出そうとするのは単なる現実逃避である。
分散電源系を社会が採用するメリットは殆どないと書いたが、本書のような研究は国民の議論の糧として極めて有益であり、推進して然るべきである。
我々は研究成果をよく理解した上で、社会が採用すべきシステムの決定に向けて、まずは極めて基本的な思考手順を以って議論すべきであろう。